2006年04月

2006年04月23日

I'm here(アイム ヒア)016

パトカーと覆面パトカーが走り抜けていった。
「おじさん、あれは何?」
龍治の顔が蒼白になっていた。
「気にするな。一緒に来い」
「家で何かあったんだ。そうだろ、おじさん」
龍治は駆け出した。
私も後を追った。
自分の家に家宅捜索に入った警察官の姿を龍治には見せたくなかった。
「リュウ、行ってはいかん!」
私は声を荒げた。
龍治の家の前で数台のパトカーが赤色灯を回転させていた。
すでに沢山の警官とヤジウマで辺りは騒然となっていた。
私は龍治に追いつくと抱き寄せた。
龍治の息づかいと鼓動が伝わってきた。
「おじさん、どうして警察がきているの」
私は質問に答えることができなかった。
ただただ、龍治の肩を包んでやることしかできなかった。
だが感傷に浸るのはそこまでだった。
「ちょっと話をよろしいですか」
丁寧な言葉だが言い方に否応(いやおう)はない。
刑事が二人私たちの前に立っていた。

パトカーと大勢の警官とヤジウマ。
その中で、蓬髪で伸び放題のヒゲを生やしたホームレスと少年は目立ちすぎた。
「君は相沢龍治くんだね」
龍治は素直に頷いた。
「そして、あんたは……」
私はそっぽを向いた。
相沢と言うのか。
そうだった。
確かに表札にはそう書かれていた。
私は今更ながらに、少年の名字を反芻(はんすう)した。
「署まで来ていただこうかな」
いよいよ私もホームレスとしての調書を取られる時が来た。


河原に秋の地虫が泣くころ、私は一年ほど住んだ「家」をたたんだ。
コンロや鍋、携帯ラジオなど身の回りの物は世話になった河原の先輩方に進呈した。
9月の初めに龍治が尋ねてきてから1ヶ月が経とうとしている。

あの日、龍治と私は多摩中央警察署で別々に聴取された。
私には権力も金もなかった。
とうとう龍治を助けることはできなかった。
それだけが忸怩(じくじ)たる思いだった。




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2006年04月17日

I'm here(アイム ヒア)015

翌朝、奴らの監視を確認したあと、私は公共施設の清掃に参加した。
ホームレスにも仕事はあるのだ。
市が用意してくれた軽作業を行うことによって、食事といくばくかの金を手にすることができるのである。
監視の目が気がかりだった。
私が普通にホームレスをすることが一番自然なのだ。
私はそのあといくつか用を片付けると帰路についた。

異変が起きたのは3時頃だった。
仕事から帰って土手を確認すると監視車両はいなかった。
私は家の前に転がしていた自転車をギコギコと漕いだ。
橋を渡る。
龍治の家と駅の間に小学校があったはずだった。
龍治に会う必要があった。

昨夜窓に映っていた赤い光点は盗聴装置だ。
レーザーモニターと呼ばれるものだ。
室内で発した音は空気を伝わってガラス面を振動させる。
ガラスに照射したレーザーはガラス面の微細な振動を拾うのだ。
原理的には糸電話である。
ガラス面が紙コップでレーザーが糸の役割をしているのだ。
レーザーモニターはそのガラスの振動パターンを音声に変換できるのだ。
その車両が撤収した。
なぜか。
盗聴の必要がなくなったからだ。
事態は新しい展開に移っていた。
彼らはヤクザではなく、警察官だった。
ヤクザは工事車両でカムフラージュした盗聴などまどろっこしいことはしない。
現場の警察官が撤収したことは証拠を押さえ容疑がほぼ固まったことを意味しているのだ。
恐らく逮捕状も取れたに違いない。
遠くでサイレンの音が聞こえた。

「龍治、私の家へ来い」
下校中の龍治はすぐに見つかった。
小学校前で張るワケにはいかない。
沢山の生徒の中から龍治を探すのは困難だ。
運よく見つけたとしても、手をひこうものなら「誘拐」扱いである。
仕方なく学校と家の通学路で狙うしかなかったのだ。
「おじさん、どうしたの」
「詳しいことは後で話そう」
龍治は私の顔から切迫した様子を見てとったようだ。
「今教えて欲しいんだ」
「ここではムリだ」
サイレンの音が近づいていた。






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2006年04月10日

I'm here(アイム ヒア)014

トランシーバーの電源はボタン電池である。
長時間は使えない。
龍治とは夜中、9時と11時に連絡をとるために電源を入れる約束をした。
私は時計を持っていないが、500メートルほど先のグランドに据えつけられている時計をスコープで確認すればこと足りた。

9時少し前。
龍治の家は一家の団らんのひと時だろうか。
リビングの電気は明るく灯っていた。
私は場所を移動して、昼間見た土手沿いの工事車両を確認できる位置に立った。
トラックとバンが停まっていたハズだがトラックはいなかった。
バンのそばでセフティーコーンの先端につけられたランプが赤く点滅している。
私の位置からは助手席の男の顔がはっきりと見えた。
こちらは暗視装置つきだが、相手は肉眼である。
そして私の位置は橋げたの下の暗がりだ。
相手からはまず気づかれないだろう。
気になるのは運転席に人がいないことだった。
バンは運転席の後ろ側が壁で仕切られている。
見張りは一人なのか、後部座席にいるのか。

私の位置からはアパート近くに止めてあった別のバンは見えなかった。
フィールドスコープをリビングに向けた。
リビングからカーテンを通して明かりがもれている。
無線機のスイッチにかけた指が止まった。
リビングの窓ガラスに赤い光点が映っていたからだ。
私は反射的にレーザーポインターだと認識した。
映画などで特殊部隊が持つライフルに取り付けられたやつだ。
赤い点は、住人に気づかれないよう窓ガラスの隅で微動だにしない。
これはレーザー照射装置を人が持っているのではなく、三脚などに据えつけているからだ。
もちろんライフルで誰かを狙っているワケではない。
私は軽く舌打ちした。
バンの役割が分かったからだ。
ドライバーは後部座席で作業しているに違いなかった。
彼らが行っているのは「監視」と「盗聴」だった。





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2006年04月07日

I'm here(アイム ヒア)013

「本当に大切なことは大切なことのために、今自分がやるべきことを行動に移すことだ」
龍治は頷いた。
「君のようにね。
私は刑事ではないが、今まだ君が私を必要としているのなら、私もできる限りのことをしよう」
龍治の嗚咽が大きくなった。
子供にこんな心配をかけさせるバカ親を私は知らない。
私のそばに、私のことをこれくらい思ってくれる人がいれば、私の人生もまた違っていたかもしれなかった。
「さっそくだが龍治。用意して欲しいものがある」
私は泣いている龍治の頭をゴシゴシこすった。


夏とは言え、太陽が沈んでしまうと河原の夜は早い。
河に架かるバイパスの橋と土手向こうに街灯がちらついているが、河原は暗い。
暗くなったら寝る。
それが私たちの生活習慣だ。
暗がりの中で、私はフィールドスコープを覗き込んでいた。
薄緑色に染まった単眼鏡(スコープ)に少年の家がくっきりと見える。
私が少年に頼んだのは、双眼鏡と通信機だった。
小学生相手のお願いである。正直、期待していなかったが龍治が持ってきたのは、びっくりするくらいのシロモノだった。
龍治は双眼鏡ではなく、山や野などのフィールドで野鳥や動物を観察する本格的な単眼鏡を持ってきた。
もちろん三脚付で、おまけに星明かりを増幅して暗闇でもはっきり視認できるスターライトスコープだった。
監視にこれ以上のアイテムはないだろう。
驚いて訊ねると、誕生日に父親が買ってきたという。
スターライトスコープは別名を暗視鏡とも言う。
軍隊で使用するような実戦的なモノもあるが、龍治のものは日本のメーカーが作っている野外観察用のものである。
通信機は安物だった。
龍治が言うには、スパイキットが学校で流行っているらしい。
数百円程度で買える小型のトランシーバーだった。
携帯電話はハイテク装置だが、無線機は基本的に第二次大戦の頃から技術は変わっていない。
今や日本では旧世代の部品として扱われ、子供の小遣いで買える程度の部品の寄せ集めで作られているのだ。




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2006年04月05日

I'm here(アイム ヒア)012

「……」
「もう一つ。私が『元刑事』として今でも使える人間か試したのさ」
「なぜ?」
「君を助ける能力がある人間か見極めるためだ」
「どうしてウソだと思ったの?」

話としては全体的にできすぎだった。
少女が指輪の異変に気づくとヤジウマが急に現れたり、都合よく龍治が犯人にでっちあげられたり……。
だが、決定的だったのは指輪の破片がペンケースに突き刺さっていたことだった。
推理小説としては成り立つかもしれないが、現実にはありえない展開だった。

「どうして?」
「誕生日に買ってもらった大切な指輪だ。そんなふうに扱うだろうか」

それがどうしても引っかかった。
大切な指輪をエンピツやペン、ケシゴムが入ったペンケースにむき出しのまま入れておくだろうか。
小さなケースとかティッシュにくるむなりするのが自然なのではないか。
ではなぜ「彼女」はそうしなかったのか。
もちろん、ケースやティッシュにくるんでいれば傷つくことはない。
「傷つけるためには」むき出しの状態のままペンケースに入れておく必要があるのだ。
事実を整理すれば小さな疑問に気づくような注意力をもった人間なら、刑事として適性があるかもしれない。
今は刑事でなくても、「適性があった」人間なら助けてもらえる可能性があるかもしれない。
龍治は必死になって考えたのだろう。

だから、指輪を傷つける「状況」を意図的に設定する必要があったのだ。
だが、その設定が破綻を生む原因にもなることには気づかなかったのだろう。
「どうだね、私が考えたことは間違っているかね」
答えるかわりに小さく鼻をすする音が聞こえた。
私はやはり人間関係がうまくない。
明日は寝起きが悪いだろう。
「龍治」
龍治は返事をしない。
「返事をするんだ」
「何……」
泣きはらした顔を龍治は投げた。
「人生で何が大切か分かるかね」
龍治は俯いたまま少し考えた。
「信じること」
「そう、それもある」
だが、私が考える大切なこととはそれだけではない。




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「元気まぐ」とは
「元気まぐ」をサイト情報に追加する by BlogPeople

私たちは、日常のちょっとしたことが原因で、落ち込んだり悲しくなったりします。
その一方で、さっきまでの落ち込みがウソのように元気になって、立ち直れることがありますよね。
人は、どんなきっかけで元気になれるのでしょうか。
普段、気にもとめないような「元気のみなもと」を追求していけば、元気になれそうな気がしませんか。

元気になるには、人それぞれのコツがあるのです。
みんなの「元気になるコツ」をみんなが知ることができたら、へこんだ時でも元気なれそうな気がしませんか。
1%の元気しかなくても「元気のコツ」を使って100個の元気を集めたら、元気100%になれるでしょう。

縁あってこのサイトを訪問して下さった皆様が元気になれますように、そうして私自身が元気になるために、「元気になるコツ」をご紹介していきます。
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