2006年05月08日

I'm here(アイム ヒア)018

「ふん」
私はほころびかけているスニーカーを脱いで絨毯に足を下ろした。
足指を靴下ごしに立て、今度は折り曲げて丸めた。
微かな緊張と腹からこみ上げてくる吐き気。
私はそれを悟られまいと、指の運動を繰り返した。
水分を欲していないハズなのに喉が乾いていた。
何かを口にしなければ吐きそうな衝動にかられた。
私はツバをごくりと飲み込んだ。
圧倒的に唾液の量が足りなかった。
鼓動が早くなり始めた。
−−落ち着け、大丈夫。落ち着くんだ−−
私は自分自身を子供をなだめる様にいたわった。
「いかがです。元検事としての感想をお聞きしたいのです。桐生元検事」
私の喉の乾きは頂点に達していた。
同時におかしさがこみ上げてきた。
そうなのだ。
龍治が聞き間違えたのは「ケイジ」ではなく「ケンジ」だったのだ。
私は刑事訴訟で有罪を勝ち取らねばならないプレスと検察内の派閥、日常業務の激務から精神が破綻するまで自分を追い込んでしまった。
私は自己破綻した「ヤメ検」だった。

「客として扱うのなら茶を出しなさい」
私は戻しそうになるのを堪(こら)えながら、しゃがれた声を出した。
女性警察官のペンが一瞬止まり、私の方を見て矢崎の反応を伺った。
「君……」
矢崎が促すと女性警察官は慌てて部屋を飛び出した。
私はたまらず袖口を口で抑え、呼吸を整えた。
戻すようなものは胃にはない。
出てくるのはいつも自分の弱さだった。
「ひどいんですか」
矢崎が心配そうに尋ねた。
検察でも警察でも精神を患った人間の成れの果ては有名だったようだ。
本人は無意識にいたわっているつもりだが、私には吐き気のスイッチに手をかざされるようなものだった。
限界だった。
私は激しくセキ込んでむせた。
検事時代の激務がフラッシュバックした。
私はもう片方の手を挙げて心配無用と伝えたが、体は言うことを利かなかった。
戻すものを探すようにポンプ状態となった胃から嗚咽と唾液を袖口に出した。




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私たちは、日常のちょっとしたことが原因で、落ち込んだり悲しくなったりします。
その一方で、さっきまでの落ち込みがウソのように元気になって、立ち直れることがありますよね。
人は、どんなきっかけで元気になれるのでしょうか。
普段、気にもとめないような「元気のみなもと」を追求していけば、元気になれそうな気がしませんか。

元気になるには、人それぞれのコツがあるのです。
みんなの「元気になるコツ」をみんなが知ることができたら、へこんだ時でも元気なれそうな気がしませんか。
1%の元気しかなくても「元気のコツ」を使って100個の元気を集めたら、元気100%になれるでしょう。

縁あってこのサイトを訪問して下さった皆様が元気になれますように、そうして私自身が元気になるために、「元気になるコツ」をご紹介していきます。
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