2006年06月30日

I'm here(アイム ヒア)025-最終回-

事件の後、私は学生時代の先輩から弁護士としてスカウトされた。
私は龍治と逢っていなければ、再び法廷に立つようなことはなかったろう。
検事であれ弁護士であれ、人間の業(ごう)が渦巻く法廷の空気になじめず精神に破綻きたした人間だった。

だが、龍治が教えてくれた人間として大切なことが、私が人間としてもう一度やり直してみるきっかけを与えてくれたのだった。

「本当に大切なことは大切なことのために、今自分がやるべきことを行動に移すことだ」

私が龍治に言った言葉だが、彼の行動がそれを示していた。
私は先輩の申し出を受けることにして、弁護士として再出発することにしたのだ。

私は龍治が学校へ行っている間に、相沢夫人と会った。
免職となった相沢元刑事の弁護を引き受けるためだった。
私の申し出に不審を抱いた夫人だったが、経緯を説明し龍治の事に及ぶと涙をこぼした。
夫人は繰り返し繰り返し頭を下げて礼を言った。
私は一つだけお願いをした。

「龍治くんに私のことは話さないで下さい」と。

隠す必要はなかったが、私は一度底に落ちた人間である。
底から這い上がって、立ち直った時に笑顔で龍治に会いたいと思った。
髪を切り、ヒゲを剃ってスーツをまとった私に龍治は気づくまい。

別れ間際に夫人は言った。
「私たちは、もう弁護士さんに払うお金すら困るような状況なのです」
私は答えた。
「それには及びません。報酬はすでに十分すぎるほど頂いています」
夫人は怪訝な顔をした。
私の懐にはあの日の「つえぇ万」が二人いるのだ。


交差点の信号が青に変わった。
夫人は私に気づいたようだが、知らぬふりをしてくれた。
龍治とすれ違い間際、腕をポンと触れられたような気がして振り返った。
Tシャツの少年の後姿が見えた。
もちろんそれは感傷に浸った私の錯覚に過ぎなかった。






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私たちは、日常のちょっとしたことが原因で、落ち込んだり悲しくなったりします。
その一方で、さっきまでの落ち込みがウソのように元気になって、立ち直れることがありますよね。
人は、どんなきっかけで元気になれるのでしょうか。
普段、気にもとめないような「元気のみなもと」を追求していけば、元気になれそうな気がしませんか。

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